墨人会は古典の中から伝統に触れることを軸とし
臨書に励み日々研鑽を積んでいます。
文字をただ再現をすることに力を注ぐのではなく
人間を養い、筆を養い、豊かな線を我がものにする
空海が行った灌頂の儀式の記録で、空海自身の書である。その年月日、場所、受けた人もわかっており、もっとも信頼できる遺墨である。書もまた優れており、空海筆として誰もが受け容れ尊重できるものである。灌頂というのは、宗教では重要な作法とされ、代表的な儀式とされている。如来の五智を象徴する水を、弟子の頂にそそぐ作法によって、仏の位を継承させることを示し、現在でも重要な宗教儀式として行われている。この灌頂記は大きな振幅を持つと同時にきびしく一点に集約する鋭さをも併せ持った豊かさ深さ香り高さ。
―――好きな書は私にはさまざま恵まれているけれども、これほどのものは他にない。いくら見ても、また筆を持って何度相対しても、私には味わい尽せないし、汲み尽せもしない。底知れぬ大きな泉であり、書の醍醐味の大海である。(森田子龍)